Case 1 診断プロセスとその後の経過
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【初期プロブレムリスト】
#1 精神発達遅滞症
#2 腸管内ガス貯留症
#3 低栄養症
【診断プロセス】
#2 腸管内ガス貯留症の診断プロセス(①②③)
図.腸管内ガス貯留症の診断プロセス
① 腸管内ガス貯留症 → 外部ガス侵入症
ガスの起源:〜腸管内で発生か、外部からの侵入か〜
このどちらかであり、どちらかでしかない。
腸管内大量ガス発生機序:
~腸管内ガス産生菌の増加か、
腸管内容物の滞留(ガス産生菌と炭水化物の接触時間が長くなる)か、
腸管内炭水化物の増加か~
以下の理由で腸管内発生は考えられない。
根拠事象(ⅰ)
* 腸管の消化吸収運動機能は正常。
学童期から続く腸管内ガス貯留症。十数年に及び増悪も寛解もなく持続。
体重減少したが、経管栄養で体重は増加。よって消化管の消化吸収機能は正常。
また、腸蠕動もあり排便もあって、腸管の運動も正常。
根拠事象(ⅱ)
* 腸管の炎症を示唆する所見なし。
腹部CTで腸管内に液貯留はない。腸管壁の肥厚もない。
つまり、腸管の炎症を示唆する腸管内への浸出液なし・腸管浮腫なし。
根拠事象(ⅲ)
* 腸管内に便なし。
腸管内のガスは腸内細菌が便中に含まれる炭水化物を分解する際に発生する。
そもそも腸管内にはガス産生の材料になる便がほとんどない。
根拠事象(ⅳ)
* 胃もガスで拡張。
過去に胃捻転の既往がある。虚脱胃は捻転は起こしにくい。この時点では胃拡張もあったことが推察される。
また、腹部単純X線写真でも左上腹部でハウストラの無い大きなガス像があり、これは胃内のガス貯留像である。口から入ってきたガスが胃を拡張させることはあっても、腸管で大量発生したガスでも胃まで拡張させるとは考えにくい。
結論:外部ガス侵入症(腸管内ガス発生の否定)
仮に腸管内のガス産生菌がこれほどのガスを産生するまでに増加したとして、全くもって消化吸収機能が正常で、画像検査でも炎症を示唆する所見が皆無とは考えにくい。
よって腸管内ガス産生菌の異常増殖の可能性は低い。
また消化管の運動機能も正常なので腸管内容物の滞留も考えにくい。
この腸管のガスは外部から入ってきたガス。
② 外部ガス侵入症 → 経口ガス侵入症
外部ガスの侵入経路:~経口か、経肛門か~
根拠事象(ⅰ)
経肛門の契機(例えば下部消化管内視鏡検査とか)はなし。十数年にも及ぶ。
結論:経口ガス侵入症
③ 経口ガス侵入症 →呑気症
経口ガスの機序:~人為的(例えばバッグマスク換気などで)か、呑気症か~
根拠事象(ⅰ)
人為的にガスを入れた病歴はなし。十数年にも及ぶ。
結論;呑気症
【現時点のプロブレムリスト】
#1 精神発達遅滞症
#2 腸管内ガス貯留症→呑気症
#3 低栄養症→マラスムス低栄養症(#2)
【その後の経過】
#2 腸管内ガス貯留症→呑気症
嚥下造影で呑気を確認した。
下顎はV字形に尖って突き出る形状で上顎もそれに沿って前へ突出。下顎歯は噛み締めで磨耗。硬口蓋上縁はドーム状の円弧で舌との間に隙間があり、特に唾液を呑む時に空気を嚥下してしまう。
処置1;噛み締めに顎歯に”足下駄”(2.5mmスプリント)→呑気改善なし
処置2;硬口蓋に隙間埋めの装具(PAP)を装置 →旨く嚥下できない
処置3;軟口蓋口挙上装置(PLA)→嘔吐反射で装着不能
胃瘻造設し適宜脱気及び高カロリー経腸栄養(1800kcal/日)を行った。腹満は改善し、自力で食事摂取量増加。茶色普通便(週3回)あり。体重は24kgまで増加し退院。